主権線 利益線


 山県有朋についての評論は 権力志向 猜疑心 陰湿などの言葉が溢れます 日本陸軍生みの親 育ての親でありながら その評判は芳しくはありません
 著者の伊藤之雄氏も 当初はとても好きになれなかったと書かれていますが 後書きには愚直 生真面目 優しさを秘めた性格 勉強熱心の言葉が並びます
 この本には一貫して 山県擁護の言葉が続きます


 勉強になったのは この本に出て来る 主権線 利益線 という言葉です

 山県有朋は 明治21−22年欧州を視察し 22年ベルリンにて マックス・ウェーバーの師 ルドルフ・フォン・グナイストと
 ローレンツ・フォン・シュタインの講義を受けます
 シュタインは 伊藤博文が日本帝国憲法起案の際に講義を受けた人物で カール・マルクスが私淑した人物でもあります

 山県は シュタインの講義から 国家には国境にあたる主権線と その外部にある利益線がある という概念を学びます
 外国勢力が利益線に進出してきたとき毅然とした措置を取ってこそ その国は外国の尊敬を受け他国に勢力を伸ばすことが出来るという理論です


 山県は 明治23年第一次山県内閣を組閣 帝国議会において施政方針演説を行い この主権線利益線の考えを発表しています
 ここに日本の利益線に朝鮮半島があたるとの帝国主義的侵略論を展開します

 当時の欧州においてこの利益線という概念はごく普通の考え方でもあったようですが この考え方に沿って日本陸軍の大陸進出の根拠を求めたのが
 永田鉄山や石原莞爾であったということに私は注目します 更にその延長線上に「満蒙は大日本帝国の生命線」という松岡洋右の言葉も見出せます
 自国の利益のために他国の領土を侵略することに何の躊躇いもないことに 恐怖すら感じざるを得ません


 ごく自然に 満州・朝鮮は日本の生命線であり 大日本帝国が生き残っていくためには 満州韓国を抑えなければならないと云う 誠に自分勝手な
 考え方が ごく当たり前のように生まれて来ます