桃山志野 藤田登太郎氏


 私の旅は 何時もその場の感覚で事前の計画を放り出して歩き回ります
 その偶然の中での出逢いを途轍もなく愉しく感じます
 桃山志野の陶芸家 藤田登太郎さんとの出逢いも 予定にはなかった偶然の賜物でした


 雨の中 東大寺戒壇院の前の道を歩き 気になりつつも何時も通り過ぎていた依水園を初めて訪れた直後に
 直ぐ隣に吉城園(よしきえん)という茶室と庭園が有ることに気付きました
 何の予備知識もなく雨の庭を愉しんでいると 茶室の縁側から にこやかなご挨拶が有り
 茶器を展示していますので宜しければどうぞと声を掛けていただきました






 玄関に廻ってみると 桃山志野の茶碗の展示です 骨董屋の御主人(女性)の説明を聴きながら 素晴らしい茶器を拝見しました
「作者の藤田先生が居られますよ」と云われ奥に進むと 写真と同じように にこやかな藤田さんが座って居られ「一服如何ですか」とお声掛け頂きました



 「膝が悪いので正座出来ません」とお詫びすると 「どうぞどうぞ お気楽に 私も無手勝流です」と
 藤田先生が40年前に焼かれたという桃山志野茶碗を取り出して 胡坐をかいたまま さっと立てて呉れました
 これです これこそ私が思い描く気取りのない一服でした

 藤田先生は 癌の手術をされ もう何日も徹夜が続くようなしんどい窯を焚くことは出来ないだろうとのこと
 更には既に志野の赤い色を出す土は殆ど掘り尽くされ入手出来なくなっていて若い陶芸家が 桃山志野の再現を試みるのは難しくなっているそうです
 志野焼きなのに何故か先生の陶房は愛媛県の新居浜にあります
 作品はどれも勇壮で素晴らしいものばかりでした 
 桃山志野を自分も持ちたいと強烈に感じ 桃山志野への想いが益々強くなった素晴らしい出逢いでした
 (藤田先生のお写真は 先生のHPから勝手にお借り致しました)